ノック


未知との遭遇を体験できる扉。
まず鑑賞者が相対するのは、古いアパートのような壁と扉。会場と地続きになるようにして建てられ、それが作品であるかわからないように紛れているが、確かに空間に違和感を与え続けている。
プレートに書かれた「ノックしてお待ちください。」という指示のもと、鑑賞者は扉をノックすると、しばらくして、扉の向こうからゆっくりとノックが返ってくる。向こう側の存在を知覚してから扉を開いてみると、そこには、人ではなく、人のような見た目でもない、「いかにも作られた」装置がある。壁もまたひどいハリボテである。鑑賞者が他者だと思っていたものは、誰でもなく、何でもない。ただ、空虚なレディメイドと出会う。




扉を介したノックのやりとりは、SNSやメディア越しの出会いのメタファーであり、その構造のフィクショナルな具現化である。 我々はSNSに限らないメディアにおいて、文字列や画像などを通じ、身体をアップロードするようにして分身を形成し、他者との対話を行っている。が、それを受信するのは生命への眼差しではなく、無機物に対する生命の錯覚である。ノックは扉の向こう側へ向かう単純な意思の表れであるようで、その回数は言語的・記号的なイミも持つ。ノックにノックが返ってきたなら、存在感や緊張、温かみなどを感じるかもしれない。しかしそれも扉を開けた途端、錯覚だと気づく。
